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水戸地方裁判所 昭和30年(行)15号 判決 1956年10月04日

原告 小沢広 外四名

被告 茨城県知事

主文

被告が原告小沢広所有の別紙目録記載の第一の土地につき昭和二十五年三月二日を買収期日として昭和三十一年七月十七日附買収令書を以てなした買収処分のうち、鹿島郡鹿島町大字田ノ辺字原山八一三番の二山林一反二十八歩・同番の三山林一町十歩・同番の四山林一町三反三畝十歩・同番の五山林八畝八歩・同番の六山林五畝二歩・同所八一四番の二山林二反九畝に関する部分をそれぞれ取り消す。

原告小沢広のその余の請求を棄却する。

原告細田一郎・同高須暎・同細田源治・同大野堯の各請求を棄却する。

訴訟費用のうち、(一)原告小沢広と被告との間に生じた部分はこれを二分しその一を右原告の負担とし、その余を被告の負担とし、(二)その余は原告小沢を除く原告四名の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告小沢広は「被告が別紙目録記載の第一の土地について昭和二十五年三月二日を買収期日として昭和三十一年七月十七日附買収令書を以てなした買収処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、原告細田一郎・同高須暎・同細田源治・同大野堯は「被告が別紙目録記載の第二乃至第五の土地について昭和二十五年三月二日を買収期日としてなした買収処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告訴訟代理人は「原告等の請求はいずれもこれを棄却する。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  別紙目録第一の土地は原告小沢広の、同第二の土地は原告細田一郎の、同第三の土地は原告高須暎の、第四の土地は原告細田源治の、同第五の土地は原告大野堯のそれぞれ所有に属するところ、訴外茨城県農地委員会は右各土地について昭和二十四年十二月二十二日自作農創設特別措置法第三十条第一項第一号に基き、前記各所有者をそれぞれ被買収者とし、買収期日を昭和二十五年三月二日と定めていわゆる未墾地買収計画を樹立した。原告等は右計画に対し茨城県農地委員会に異議申立をしたが棄却されたので、さらに被告茨城県知事に訴願したところこれ亦訴願棄却の裁決がなされた。

次いで被告知事は右計画に基いて買収令書を発行し、原告小沢広を除く原告四名には同年三月中にこれを交付し、原告小沢に対してはその交付に代えて昭和二十五年七月二十八日附茨城県報号外に公告したがその後右の公告はその前提たる原告小沢に対する令書交付手続に瑕疵あり、令書の交付に代るものとしての効力がないものと被告においても認め、原告小沢に対しては新たに昭和三十一年七月十七日附の買収令書を発行し同月十八日これを交付して、それぞれ買収処分を了した。

(二)  然し乍ら右買収処分には次のような違法が存する。

(1) 別紙目録記載の土地(以下本件土地と称する)は、土壤が総て酸性で農作物の育成が不能であるため開墾不適地でありまた本件土地はその下手に存する田谷部落水田の水源地となつているのでこれを開墾すると右水田は枯渇するのみでなく、本件土地は原告等及び附近住民の採草薪炭林となつているのでこれを買収するとその営農上重大な支障をきたすものであるから、本件買収処分は未墾地買収処分の本旨に反し違法たるを免れない。

(2) (原告小沢広のみに関する主張)

別紙目録記載の第一の土地中には買収計画当時既墾地が存したものであり、その地域は八一三番と八一四番(各元番枝番を含む)との一部に属するように思われる。しかし八一三番及び八一四番の元番及び枝番との境も明瞭でないので右既墾地が右の元番及び枝番の土地に属するとして、そのいずれに属するかは明らかでないが右既墾地を他の未墾地と一括して買収した点に違法が存する。

而して前記(1)の違法は重大且つ明白な瑕疵を帯びたものであるから原告細田一郎・同高須暎・同細田源治・同大野堯は本件買収処分の無効確認を求め、原告小沢広は前記の(1)及び(2)の事由に基きその買収処分の取消を求める。

二、答弁

(一)  原告等主張の(一)の事実は認める。

(二)  原告等主張の(二)の(1)の事実は否認する。仮りにその主張の通りであるとしてもその処分は当然に無効ではない。

原告小沢広主張の(二)の(2)のように、目録第一の土地の一部に買収計画当時既墾地であつたところが含まれていることは認める。その地域は原告主張の八一三番・八一四番(元番枝番を含む)の中に存するのであるが、同地の元番と枝番との境界は明らかでないので、その地番の関係を明らかにすることはできない。

第三、立証<省略>

理由

原告等主張の(一)の事実については当事者間に争がない。そこで被告のなした本件買収処分に原告等の主張する違法が存するかどうかについて判断する。

一、原告等主張の(二)の(1)について

(一)  成立に争のない甲第一号証によると本件土地は、その土質が酸性度五・四乃至五・六で地味は良好とはいえないが、開拓適地基準による三級地として開拓適地に該当することが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  本件土地の立木を伐採しこれを開墾するときは、下手にある水田の枯渇を来すとか、原告等及び附近住民の採草薪炭林が欠乏し、そのためこれらの者の営農に重大な支障を来すとかいうことのため本件土地の買収が未墾地買収の趣旨に反するものであるとの点については、原告等の全立証によつてもこれを認めるに十分でないのである。

それ故原告等の(二)の(1)の主張はこれを採用することができない。

二、原告小沢主張の(二)の(2)について

別紙目録記載第一の山林中には本件買収計画当時既墾地が存したことは当事者間に争がなく、成立に争のない乙第一号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、その地域は八一三番及び八一四番(各枝番を含んだ意味において)の土地の一部に属していることが認められる。而して八一三番及び八一四番の土地で本件買収の対象となつているのは八一三番の二乃至六及び八一四番の二の各土地であるところ、右既墾地の部分は右のいずれの枝番の土地に該当するかを考察するに、成立に争のない甲第九号証・前記乙第一号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、買収土地のうち八一三番の三乃至六の土地は公図上は存在しないし、八一三番・八一四番の元番及び枝番の境が明瞭でないことは当事者の主張上争がないのみでなく、事実上もその境及び各範囲を明確にしえないことが認められる。従つて元番と枝番とを含んだ意味の八一三番と八一四番との土地のうちに前記既墾地は存在するのであるが、それが八一三番と八一四番の元番及び枝番の土地のうちそのいずれに存するかを特定して認めることができない以上、本件買収処分の対象となつている八一三番の二乃至六及び八一四番の二の各土地につきそれぞれ全地域が未墾地であるとして買収計画を樹立したのは違法であるといわねばならない。以上の通りであるから結局原告小沢広については八一三番の二乃至六及び八一四番の二の各山林に関する限り本件買収処分は違法であるから、右原告の本訴請求中これが取消を求める部分は正当として認容し、その余の部分は失当として棄却すべく、又本件原告のうち前記小沢広を除くその余の原告の請求は失当として全部棄却すべきものとする。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条・第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 多田貞治 広瀬友信 藤原康志)

(別紙省略)

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